前編の記事では、今回のパターンが指している「準備段ありのイタリア式伏せ止め(Italian BO)」を理解できず、結局ふつうの二目ゴム編み止めで処理した……というところまでを書きました。
後編では、その続きとなる前立て~完成までと、
準備段ありの Italian BO = Tubular BO だと理解できた経緯についてまとめます。
Artisane Cardiganの前立て解説:Italian COとdouble knitting(袋編み)

心にモヤモヤを抱えたまま二目ゴム編み止めをして、袖まで編み終わりました。
そして最後の難関、いよいよ前立てに入ります。
この前立ても、これまでの私の経験では一度もやったことがない編み方でした。
身頃から目を拾って……切っちゃうの?
最初の指示は、右身頃 → 後ろ身頃 → 左身頃の裾まで目を拾い、そこで糸を切るというもの。
拾い目からそのままガーターで編むか、別パーツを縫い付ける前立てしか経験がなかったので、「なんでここで糸を切るの?」と完全に意味不明でした。
前立ての目の拾い方と前立ての編み方
まず、長めの輪針を使います(私は120cmを使用)。
表側を見た状態で、右前身頃の裾 → 後ろ身頃 → 左前身頃の裾へ向かって、指定数の目を拾います。
ここで 糸を切ります。
次に、右前身頃の裾側にある針先を使い、
編地の裏側を見た状態で Italian CO(イタリア式作り目) を行います。
作り目ができたら、編地を再び表側が見える向きに持ち替え、
Italian COで作った目から編み始めます。
RS(表側)
以下を段の最後から一目手前まで繰り返します。
- 表目:表編み
- 裏目:糸を手前に置いて滑り目(浮き目)
段の最後は、
前立ての最後の1目と、身頃から拾った最初の1目をねじり2目一度。
WS(裏側)
ひっくり返して、最初の一目(RSではねじり目二目一度している)は糸を手前に置いて滑り目(浮き目)し、以降は以下を段の最後まで繰り返します。
- 表目:表編み(RSでは浮き目をしている)
- 裏目:糸を手前に置いて滑り目(浮き目、RSでは表編みしている)
最後の1目も糸を手前に置いて滑り目。
これのRSとWSを繰り返すのですがこの構造、実は Double Knitting(袋編み) でした。
一般的にダブルニッティングというと「表裏で色が反転する模様」や「2色編み」を指すことが多いのですが、この前立ては単色・端処理専用。
海外では double knit front band / tubular front band などと呼ばれ、「模様のダブルニッティング」とは区別されているようです。

このとき、「あれ?この編み方、イタリア式伏せ止めの準備段と同じじゃない?」と気づきました。
この話は後述します。
はじめまして!スリット式ボタンホール
これまで私が使ってきたボタンホールは、
- 編み終わったあとに開ける無理穴
- RS:伏せ止め/WS:伏せた分を巻き増し目する方式
(Bind-off & Cast-on Buttonhole)
のどちらかでした。
ところが今回のやり方はまったく違います。
- まずボタンホール位置にマーカーを付ける。
- マーカー位置まで double knitting+ねじり目2目一度で進む。
- マーカーに来たら RS までは普通に編み、WS で半分だけ編んで残りを休み目にする。
- 編んだ側を指定段数まで編んで糸を切る。
- 休み目側に新しい糸を付け、同じ段数を編んだら、最後は編みながら合体。
これでできるのがスリット式ボタンホール。
[A 側]|||||| [B 側]||||||
こんな感じに分けるので…。
||||||||||||
||||||||||||
||||||||||||
||||||||||||
※|=表目。||の間がスリット
こうなる(伝わりますか?)
今までとはまったく違う発想で、素直に「なるほど……」と感動しました。
そうだったのか!Italian COが本来のItalian BOの意味を気付かせた
前立てを編み進めていくうちに、決定的な違和感に気づきます。
まず、「前立てのこの編み方、Italian BO の準備段そのものじゃない?」ということ。
そして、身頃裾(二目ゴム編み止め)と Italian CO で始めた前立ての厚みの違いです。

Italian CO した前立ての編み始めは、明らかにふっくらしている。
改めて調べると、Italian BO と Tubular BO はほぼ同義で使われることが多く、Sandnes Garn が言う “Italian BO” もまさにこれでした。
前編で悩んでいた以下について。
- 準備段の意味が分からない
- 針を2本使う構造が理解できない
この「針を2本使う構造」を図にしてみましょう。
二目ゴム編みは、
表|表|裏|裏|表|表|
という並びですが、「表目と裏目を別針に分ける」とこうなる。
針A:表|表|表|表|表|表
針B:裏|裏|裏|裏|裏|裏
この2本を左手に並べて持ち、右針でAは表編み、Bは浮き目として交互に移動する。
これが Tubular BO の準備段で、ここを挟むことで、ふつうの二目ゴム編み止めよりも厚みのある、チューブ状の仕上がりになります。
この仕組みに気づいたとき、
「これって Italian BO だけど、二目ゴム編み止めじゃなくて Tubular BO を指してたんだ!」
とテンション爆上がりして、Threads にこの気づきを投稿したら編み物教室の先生から
「その理解で合ってます!私もこの方法が好きです」
と太鼓判までいただきました。
最初は
「針AでRSとWSを編んで、次に針Bで同じことを編むの?」
と構造的におかしな解釈をしていたので、分からなくて当然だったんですよね。
というか、あの説明だけじゃわからんわ!
でも、なんやかんやと完成しました!

まとめ
Sandnes Garn のパターンは、本当にテクニックの宝庫。
今回の最大の学びは、
Tubular BO なのか、文脈で判断すること。
そして、仕上がりにこだわりたいなら、少し面倒でも Tubular BO を選ぶ価値がある。
ということでした。
ちなみに【Artisane】って調べたら「職人」という意味。
まさに、細部にまで職人技が詰め込まれたパターンでした。
前編で書いたとおり赤にこだわって編んだのですが、完成して着てみたら、モヘアの芯糸もまったく気にならず、納得の赤。
サイズ感もぴったり。

ただし V ネックが思ったより深かったので、ボタンを一つ上に追加。
少し引きつれているけど、まあ気づかれないよね。
関連記事
このカーディガンは、最初から順調だったわけではありません。
糸の組み合わせで理想の赤を叶え、編み始めたものの、Italian BOという大きな壁の前でいったん諦めた ところからすべてが始まりました。
その迷いと試行錯誤の記録は、前編で詳しく書いています。


