編み物の著作権とモラル―編んだ作品の販売や編み図のコピーで「やっていいこと・悪いこと」

お役立ち

私たちが手に取る編み図やパターンには、プロのデザイナーさんが時間と情熱をかけて試行錯誤した知識と技術が詰まっています。

材料費だけでなく、デザイナーのアイデア、長い経験、そして新しいデザインを生み出すための努力の結晶が「編み図」や「パターン」です。

この記事では、編み物ライフをもっと楽しく、気持ちよく続けるために、私たちが守るべき「著作権」「編み手としてのモラル」について、具体的な事例を交えて考えます。

法律の話は難しく感じますが、基本は「デザイナーの収入や、創作活動の権利を不当に侵害しないこと」です。

もし、あなたの大切な作品やアイデアが勝手に利用されたら悲しいですよね?
立場を変えて、少しの想像力を働かせれば、自ずと「やっていいこと・悪いこと」が見えてきます。

【重要】編み物で「やってはいけない」4つのNG行為(パターンを守ろう)

多くの編み物本やパターンには、デザイナーの権利を守るための注意書きがあります。
これは、創作活動を守り、今後も素晴らしいデザインが生まれるようにするための大切なルールです。

NG 1. 市販の「編み図通りに編んだ作品」を売ること

ハンドメイドサイトなどで自作の作品を販売することは素晴らしいですが、市販の編み物本に掲載されている「編み図(パターン)」を使って編んだ作品を、そのまま販売することは禁止されているケースがほとんどです。

本の奥付(最終ページ)などには必ず「本書で紹介した作品の全部または一部を商品化、複製頒布することは禁じられています」といった記述があります。
この「商品化」が販売にあたります。

もし誰でも自由にその作品を売れるようになると、デザイナーがデザインの対価を得られなくなり、創作活動を続けることが難しくなってしまいます。

新しい素敵なデザインをこれからも生み出してもらうためにも、販売は控えましょう。

NG 2. 誰かの「編み図そのもの」を販売・配布すること

これも絶対にNGです。

正規のルートで入手した編み図や本の内容をコピーして、友人や別の人に渡したり、インターネット上で公開したりすることはできません。

お金を取っても取らなくても、これは「無断複製」「無断配布」にあたります。

【法律的な根拠】 編み図はデザイナーの「著作物」です。著作権法によって、著作者の許可なく複製・配布することは厳しく禁止されています。

※編み図をスキャンして電子データ化し、個人的に楽しむ場合であっても、スキャン代行業者などの第三者に依頼した時点で著作権法違反となります。

NG 3. 有料パターンの「編み方」を無許可で解説・公開すること(動画含む)

これもNG行為であり、著作権侵害にあたる可能性が非常に高いです。

有料で販売されているパターン(編み図)に記載された、独自の目数や段数、増減目の配置といった具体的な「編み方の構成」は、デザイナーの著作物として保護されています

デザイナーの許可なく、これらの「編み方の詳細」を解説する動画や文章などをインターネット上で公開することは、実質的に著作物を「複製」したり「翻案(作り替えて利用)」することと見なされ、公衆送信権の侵害にあたる可能性があります。

たとえ「親切心」から編み方を紹介したとしても、それは有料パターンを購入した人だけが得られる情報であり、デザイナーの正当な利益を奪う行為につながります。
有料パターンを購入して、正しくデザイナーを支援しましょう。

NG 4. SNSやブログで「本のページ」を丸ごと公開すること

本の表紙はOKな場合が多いですが、中身のページを写真に撮って公開するのはNGです。

「この本を買いました!」「このページを見て編んでいます」といって、本の編み図や、作品の写真が掲載されたページを写真に撮り、インターネット上にアップロードすることは「公衆送信権の侵害」にあたります。

たとえ「素敵な本だよ」と紹介したい善意からだとしても、本の全貌が分かってしまうような写真の公開は、出版社や著作者の利益を損なう可能性があります

紹介する場合は、表紙や、本の魅力を伝える文章に留めるのがマナーです。
ちなみにわたしは出版関係に勤めていたことがありましたが、表紙の画像投稿は黙認していました。

「これはOK?」知っておきたい著作権の豆知識

さて、ここまで読んできて「これってどうなんだろう?」と迷うことはありませんか?

ということでわたし個人が迷ったことについて、考えてみました。

豆知識 1. 私的利用ならOK!自分用の編み図コピー

「本に直接書き込みたくない」「持ち運びたい」などの理由で、編み図を自分でコピーするのは問題ありません。

日本の著作権法には「私的使用のための複製」という例外規定があり、「個人的に、または家庭内その他これに準ずる限られた範囲内で使用するため」の複製は認められています。

ただし、先述の通り、代行業者に依頼して複製してもらうのはNGです。

豆知識 2. 編み物の「技術・手法」そのものに著作権はない

編み物の技術や手法、あるいは「アイデア」そのものには、著作権は発生しません。

著作権が保護するのは、その技術や手法を「具体的な形」で表現した編み図、パターン、写真、文章などです。

そのため、特定の技法を使って独自の作品をデザインしたり、その技術を説明したりすること自体は問題ありません。

デザイナー本人が販売OKと許可を出している場合

たまに「この編み図(パターン)で編んだ作品は販売OKです」と明言しているデザイナーもいます。

その場合は作品の販売はOKです。
ただ、作品はOKでも編み図(パターン)の販売はNGとしていることは多いです。

ただし、有名なアニメのキャラクターやゲームのキャラクターを模したものであると権利がデザイナーではなく制作会社・配給会社が持っていますので、そこは注意してください。
(そういうことを知らずに編み図を公開してる人がいないとも限りません。今は気軽に投稿公開する人が多いので…)

結論:大切なのはデザイナーへの「想像力」

著作権や法律の話は複雑で、すべてを完璧に理解するのは大変です。しかし、基本はとてもシンプルです。

「今、自分がしようとしていることは、この作品を生み出したデザイナーの不利益にならないだろうか?」

この問いに立ち返ることが、最も大切な「モラル」であり、編み物コミュニティ全体の調和を保つカギになります。

素敵なデザインを生み出してくれるデザイナーさんが、正当な報酬を得て活動を続けられるよう、ルールを守り、お互いを尊重し合いながら、豊かな編み物ライフを楽しみましょう。

関連記事

「著作権」や「知的財産権」といったルールは、私たちが気持ちよく編み物を楽しむ上で欠かせません。

これらの具体的なルールとともに、ニッターとして常に意識しておきたい「モラルとマナー」について、以下の記事でさらに詳しく一緒に考えてみましょう。


参考文献・関連法規

この記事は、編み物愛好家のモラルとマナーについて考えることを主目的としていますが、著作権に関する記述については、以下の法令および公的機関の情報を参考にしています。

  • e-Gov法令検索著作権法
    • 特に、私的使用のための複製(第30条)や複製権(第21条)など
  • 文化庁著作権Q&A
記事の該当部分参照すべき法律・情報源URL
私的利用のためのコピーがOKな根拠著作権法 第30条:私的使用のための複製https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=345AC0000000048#Mp-Mt_30
アイデア・技法には著作権がない根拠著作権法 第2条:著作物の定義(アイデアの不保護)https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=345AC0000000048#Mp-Mt_2
作品販売(商品化)や無断配布がNGな根拠著作権法 第21条:複製権、第27条:翻案権、第23条:公衆送信権等https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=345AC0000000048
著作権の基本原則に関する解説文化庁:著作権Q&A(著作権の目的、保護対象など)https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/92051901.html
著作権侵害に関する基礎知識経済産業省 知的財産権保護のページなどhttps://www.meti.go.jp/policy/intellectual_property/kaitou.html

※当記事は法律の専門家ではない個人の見解も含まれています。個別の事案やトラブルについては、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。

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